ソフトウェアの保守費用の考え方

ようやく、IE11について多くのサイトで対象外とする調整作業が始まったようです。弊社がコンサルティングを担当しているサイトやサービスでも、IE11を動作保証から外し、代わりに(あるいは追加ブラウザとして)Edgeを検討されるようになってきました。
この際、多くご相談をいただく内容をまとめますと次の二つになり、それぞれについて解説していきます。

  1. IE11を動作保証対象から外していいのか。
  2. Edgeを動作保証対象に入れていいのか。

自社サービスにおいて、他社サービスやプログラムの動作保証を外すということはどういうことか。

「IE11を動作保証対象から外していいのか」というご相談は、他社のサービスやプログラムが製品寿命を迎え今後サポートされなくなる、つまり更新されなくなる場合に、自社としてどのように対応すればいいのか、と言い換えることができます。他社のサービスが製品寿命を迎えて使われなくなるのですから、自社サービスにおいても動作保証の対象とし続けるメリットがありません。特にIE11は対応コスト(手間)がかかる製品であるため、可能な限り早く動作保証から外すのが基本的な方針となります。

自社サービスにおいて、新しく出た他社サービスやプログラムを動作保証するということはどういうことか。

「Edgeを動作保証対象に入れていいのか」というご相談は、新しく出てきた他社サービスやプログラムを自社のサイトやサービスにおいて「確実に動きます」と宣言していいのか、と言い換えることができます。これは大きく分けて二つの観点から考えることができます。ビジネス的な観点と技術的な観点です。最初に技術的な観点からご説明し、ビジネス的な観点を後にご説明いたします。

まず技術的な観点から見ますと、Edgeは「Chroniumに基づいている」と明記されており、Chromeを動作保証としているのであればEdgeもそのまま動作することが期待できます。しかし、テストを全くせずに「動作保証します」と言っていいのかどうかという疑問を持たれることでしょう。もしこれまでの保守作業においてリグレッションテストなどサイトを包括的にテストする手順が自社にあるようでしたら、それをEdgeで行うことで十分な動作保証となるかとおもいます。問題なのは、これまで全てを開発ベンダーに丸投げしている場合で、動作保証ブラウザもベンダーがテストしたブラウザのみを挙げていた場合です。筋で言えばベンダーに「納品時に行った試験をEdgeでも実施して結果を報告して欲しい」という依頼をすることになりますが、おそらく想像以上の工期と見積を提示されることでしょう。売上に直接は貢献しないその費用を、おそらく動くであろうソフトウェアの動作確認のために支払うべきか否か、と悩まれるかと思います。

これが「ビジネス的な観点」と先に述べた問題です。次節で詳しく解説いたします。

ソフトウェアの性質と変化に対して準備する。

ここまで述べてきたように、全てのソフトウェアというのは(組み込みソフトウェアやインフラのソフトウェアも)進化し続け、新しいものが生まれ、そして古くなったら消え去っていきます。また、AIやDXというキーワードをわざわざ持ち出さなくても、自社のビジネスがソフトウェアに依存していることを否定できる業界・業種は2021年8月現在、ほぼないでしょう。ソフトウェア起因での環境変化は必ず発生し、全てのビジネスはそれに準備しておかねばなりません。

準備をすると言っても、複雑なことではありません。ビジネスの三大要素、時間・人材・予算を5W1Hを整理した上で獲得することが必要なのです。今回のテーマであれば、Edgeのみならず以下のように整理できます。

  • 目的(Why)
    • 自社サービスが利用できる社外ソフトウェアが何か、を定期的に最新の状態にする。
  • 手段(How)
    • 社外ソフトウェアを自社サービス上でテストする。
  • 必要なリソース例(What/Who)
    • 社外ベンダーの保守要員の稼働工数を二週間。それに応じた費用xx万円。
    • 社内担当者のによる試験結果の検収工数。3日間。xx万円。
  • 実施時期(When)
    • 社外ベンダー保守要員の次回空きが2021年10月。よって検証完了2021年11月予定。
  • 検証箇所(Where)
    • 自社サービス主要CVポイント、お問い合わせフォーム、検索機能、ランキング機能

このように整理できるかと思います。自社の状況に合わせて読み替えてみてください。

このような整理を積み重ねていくと、ソフトウェアの環境変化における費用がいくら必要なのか、つかめてくると思います。それを踏まえて次年度予算の獲得に繋げていただきたいと思います。また、SIベンダーが提示している「保守費用」とは、ソフトウェアが正常に動作するための費用であり環境変化に対応するための費用が含まれていないことに気づかれると思います。これからの環境変化に素早く対応するためには、「保守費用」だけでは不十分であり、また環境変化に対応するためのコストは想像以上に高額になることもあるでしょう。これらに素早く対応するためには、ソフトウェアを安価に素早く作る体制を構築するという手段も考慮に入れる必要があります。