芸術と技術
電子図書館にて柳沼 重剛によるギリシア・ローマ名言集 電子書籍版 (岩波文庫)を読んでいたところ、有名な
「芸術は長く人生は短し」
が
「人生は短く、技術は長い」
として紹介されていました。今の日本語の感覚において芸術と技術では大きく違うように感じますが、この違いは言葉の意味の変遷により生まれたようです。引用しますと
ラテン語 ars longaは英語ならart is longで、artは「芸術」だと安直に理解され(略)
しかし18世紀以前に関しては、ars(あるいはart)を「芸術」と訳したら、ほとんどの場合誤訳になる。ついでながら、arsとラテン訳されたギリシア語はτέχνη(techne)である。
とあります。この18世紀以前という話についてOxford Dictionaryでtechneの語源をあたると1897年にG. Murray.によってギリシア語から転用されて使い始められたようです。ちょうど産業革命の時代でもありますし、19世紀に「芸術的な技術」という考え方がでてきたのでしょうか。
「芸術的な技術」は現代のWebサイトやスマホアプリの構築プロジェクトにおいても求められています。例えば、RDBのテーブル設計においてどこまで正規化を行うか、クラス設計における再利用性とビジネスロジックのバランス、パフォーマンスとセキュリティと保守性のどこに落とし所を持たせるか、などに芸術的センスや直感力が発揮されます。これらは技術的バックグラウンドや経験に裏打ちされたものです。絶対的正解がない中で、期限内に何を作るのか、それをどのように更新していくのかが我々には求められています。さながら観客の前で芸術作品を作り出すことにより、制作過程そのものが展示されている現代アートのアーティストであるような気持ちにさせられます。
それはともかく、芸術と技術が元を辿れば同じ言葉だったのだと知り、少し嬉しくなったのでした。技術と芸術は同じものと考えることで、これまでとは違った発想をプロジェクトに取り込むことで作り出すシステムの価値を高めることにチャレンジしてみませんか。次回の振り返り会のテーマに「このシステムらしい美しさ」を使ってみると、メンバーごとの「美しさ」の考え方の違いにより多様な視点がチームにもたらされ、普段とは異なった発想から改善点が発見されるかもしれません。