プロジェクトマネジメントと想像力について

先日ベンダー側を担当していたプロジェクトが無事リリースを迎えました。以前から気になっていた「オンナの奥義」という阿川佐和子と大石静の対談を読んでいた際、非常に興味深い一説を見つけました。それはプロジェクトマネジメントにも通じる重要な指摘だと感じたため、ご紹介します。プロジェクトマネジメントに不可欠な「視野の広さ」と「想像力」について次のように語られています。

P210より

阿川佐和子「視野の広さというか、見通す力。」
大石静「つまり想像力よね。世代に限らず仕事ができる人には必ず想像力がある。」

彼女たちはドラマの脚本や雑誌の連載などのクリエイティブな分野の第一人者ですが、彼女たちの指摘する想像力と見通す力は、プロジェクトマネジメントにも求められます。それがないと、「進捗どうですか」と聞くだけの、「進捗は順調です」と報告するだけの、過去を向いたマネジメントしかできないのです。想像力や見通す力があれば、現状を踏まえて来週何をすべきか、来月何をすべきか、誰と何を話すべきか、顧客に何を依頼すべきかまで考えることができます。

前回のプロジェクトから例を挙げると、ある管理者は質問に対して常に現状の説明から始めていました。想像力がないから、現状を説明するだけしかできなかった例です。また別の例で、参加していたプロジェクトマネージャーの一人は、「で、どうしましょう?」という質問にすらなっていない、会話の主導権を丸投げする方法で議論を始めていました。これは、見通す力がないから会話の組み立て方を考えることができなかった例です。このような対応が続くと顧客は「それを考えてくるのがあなたの仕事でしょう」と思ってしまうでしょう。いずれも、想像力や先を見通す力が欠けているために、議論の準備ができないのです。準備ができていれば、質問を想定することができますし、答えも複数用意しておいて何がプロジェクトにとって有利かを示すことができます。また、顧客の回答を振り返り何が選ばれて、何が選ばれなかったのかを振り返ることもできます。そうやって顧客が求めるものが何かを引っ張り出し、言葉とすることで、顧客のことをより理解しソフトウェアに反映させることができます。それができるとリピート発注につながり、ビジネス上の利益も得ることができるようになります。

しかし、想像力をどうやってつければいいのか、見通す力をどうやってつければいいのか、という問題が発生します。これは聞く力を使って地道に身につけるしかないのではないかと思います。グラミー賞を3度受賞した世界的バイオリニストであるヒラリー・ハーンのインスタグラムにも #100daysofpractice を始めたと力強く書かれている通り、基礎的な鍛錬を繰り返すことが何よりも重要です。プロジェクトマネジメントにおける基礎的な鍛錬とは、人の話をとにかく正確に聞き、理解し、その上で何を考えるか、です。この基礎の鍛錬を繰り返すことで、確実に想像力が養われ、最終的にはより品質の高いソフトウェアを開発する力となります。想像力を持ったプロジェクトマネージャーこそが、未来のビジネス成功に貢献できるのです。