人間が実行すべき翻訳と意思決定について
先日WIREDの記事でこのようなものがありました。
テックCEOたちはAIの分身で“遍在する存在”になれると考えている
この記事には、私が考えている中間管理職やマネジメント層が不要になる未来が描かれています。具体的には「ザッカーボット」による経営者とのコミュニケーションや、ドーシーと末端作業者までの階層をゼロにするという2点です。いずれも、CEOと従業員とのコミュニケーションについてAIの支援や代行により達成されるもので、中間管理職であるプロジェクトマネージャーは不要となる未来を多くの人がすでに想像しており、一部の組織ではまもなく現実となっていくでしょう。しかし、結局は人間の介在が不要にならないという重要な論点が2つ示されていると考えます。一つは言葉にならないコンテキストを翻訳すること。もう一つはすべてが実現可能な現状で「何を省くか」を意思決定することです。
ドーシーのブログによれば、AIモデルが理解できないコンテキストは
They sense things the model can't perceive: intuition, opinionated direction, cultural context, trust dynamics, the feeling in a room.
モデルが捉えきれないのは、直感、意思を伴った方向性、文化的背景、信頼力学、その場の空気。
とされています。個人的には、ずいぶんウェットな内容だと思いますが、いずれも「言葉にしづらい」という特徴があるのではないかと思っています。この言葉にしづらい内容を、AIが間に挟まっているレポートライン上でどのように表現すべきでしょうか。AIを含めてまだ回答が与えられていないこの問いについて、私の経験から感じることを述べてみたいと思います。
これらのコンテキストは一見、人間同士であれば自然に共有できるもののようにも見えます。しかし実際には、言葉にしづらいがゆえに、プロジェクト管理上の事実とは別のレイヤーで存在し、人々に混乱をもたらしてきたものでもあります。私たちプロジェクトマネージャーは、単に事実を伝え進捗を管理していたのではありません。プロジェクト管理上の事実を踏まえながら「誰が、何を、どのような意図で言っているのか」と「誰に、何を省き、何を詳細に伝えるべきか」を常に考えてきました。言い換えると、私たちがドーシーの挙げた言葉にしづらいコンテキスト群を暗黙のうちに翻訳していた、とも言えます。ザッカーボットやドーシーのゼロ・レイヤー組織において、これらのコンテキストの伝達に長けた人物が、CEOのビジョンと実際とのギャップを埋め、マーケットの応答をCEOのビジョンへフィードバックする役割を担っていくのだと考えます。
そして、この翻訳作業の先には、何を残し、何を省くかの意思決定があります。AIによって実装コストが劇的に下がるほど、すべてを作れてしまうからこそ、「何を作らないか」「何を省くか」の意思決定が重要になると考えています。例えばTiktokに決済機能とナビ機能を詰め込んでも、提供価値の軸から外れており、プロダクトとしては使いづらくなるでしょう。だからこそ、言葉にしづらい文脈を翻訳するだけでは足りず、それを踏まえて何をあえて作らないのかを決める必要が出てきます。CEOやCxOが何を省くかを意思決定できれば理想ですが、省いた結果についてはAIではなくマーケットが決めるため、試行錯誤のコストはどうしてもゼロにはできません。ここはプロダクトマネジメントの経験が意思決定を促進させる要素となってくるでしょう。
この翻訳と省く意思決定は、ドーシーほど極端でない企業の場合に複数階層にわたって発生します。複数階層にわたってコンテキストが正しく伝達され、何を省くかの判断を適切なタイミングで行うことが、これからの企業のブースターともなるでしょう。ここを失敗すると、成長を阻害しかねません。ドーシーの挙げた5つの要素が、いま自社の階層間コミュニケーションでどのように失われ、どこで誤解されているのか。これを見つめ直すことは単にコミュニケーションを改善するにとどまらず、AIへの的確な指示出しや市場のフィードバックを次のループに正しく連携し、結果として企業の成長速度を左右するでしょう。
